横井久美子 東京新聞「本音のコラム」 2000年2月15日 |
「市民を巻き込むえん罪」 最近、近くに住む知人の夫君が逮捕され、二十一日間も拘留された後、不起訴処分で釈放された。 彼は、帰宅途中の電車内で、携帯電話で声田かに喋りつづけた若い女性に注意し、その後、下車して、駅を出たところを「現行犯」で逮捕されたのである。 容疑は「電車内でのワイセツ行為」であった。 彼にとっては、晴天へきれき。車内で携帯電話の使用を注意しただけで痴漢にされ、現行犯でもないのに、「現行犯」逮捕され、その上、「逃亡のおそれ」があるとして二十一日刊も警察署に拘束されたのだ。 彼は、密室で自白を強いる取り調べにたいし、不当逮捕であることを毅然と主張し、やっと日常の生活に戻ることができた。 彼の場合は、女性に注意したのを逆恨みされ、「犯罪者」にされてしまったのだが、最近こうした満員電車での身に覚えのない痴漢行為で逮捕される人が増えていると聞く。 それは「迷惑防止条例違反」(痴漢容疑)が、女性側の告発だけで立件できるからである。 しかし、違反者は犯行を認め最高罰金五万円を払えば略式起訴となり釈放されるので、まったくのぬれぎぬでも世間体を考え、泣き寝入りしている人も多いという。 もちろん痴漢行為は、女性の人権を侵す許しがたい犯罪である。卑劣な痴漢は徹底的に取り締まるべきだ。 しかし、その一方で、痴漢撲滅キャンペーンの名のもとに、警察が十分な調査もせず、密室で自白を強要し「犯罪者」に仕立てることには、恐怖さえ感じる。 「市民を巻き込むえん罪」は、私たちのすぐ近くにもあるのだ。 現在、略式起訴を拒否し、東京簡易裁判所に訴えている人は二十人にものぼるという。 横井久美子(シンガーソングライター) |
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