横井久美子 東京新聞「本音のコラム」 2000年12月5日
「女性国際戦犯法廷」

 12月8日から、旧日本軍による慰安婦制度を裁く「女性国際戦犯法廷」が、東京で開かれる。韓国、中国、台湾など八カ国・地域から、かって慰安婦にされた女性たち約80人が来日し、日本政府と元軍人個人の戦争犯罪を証言する。
 「慰安婦問題」は、その事実を知れば知るほど、おなじ女性として、胸が痛すぎて辛い、「過去のことだから」と耳を塞ぎ、目を覆い、避けて通りたいと、多くに人が思う。私もその一人である。
 しかし、「慰安婦問題」は過去の出来事だろうか。
 いまだに、戦争中に「慰安婦」と交渉のあったことを、恥ずかしげもなく、トクトクと話す元軍人がいることを聞くと、その精神構造は「今」につながっているのではないかと思う。女性を人格のある一人の人間として認めない思想は、セクハラやドメステッィクバイオレンスや買春など、日本のいたるところにいまだに残っている。
 戦争は人間を獣にし、戦争に性暴力はつきものという。しかし、戦争という極限状況のなかでも、平和な時でも、性暴力は犯罪であることに変わりはない。
 国際人道法でも、武力紛争下の女性に対する暴力を犯罪と認め始めている。犯罪は裁かれなくてはならない。
 この法廷には、裁判官として、マクドナルド・旧ユーゴ戦犯法廷の前所長をはじめ、アメリカ、イギリスなどから国際法の専門家が参加し、12日に判決を下す。
 戦争と平和の世紀であった二十世紀の最後に、この日本で、東京裁判でも裁かれなかった旧日本軍の性奴隷制が裁かれることに、世界中のマスコミが注目し、取材申し込みが殺到しているという。
 女性への戦争犯罪を裁くことなしに、二十一世紀への女性の真の人権を守ることはできない。
横井久美子(シンガーソングライター)

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