横井久美子 東京新聞「本音のコラム」 2001年12月4日
シェフの怒り

 国内で二頭目の狂牛病が確認された夜、新宿の繁華街で友人と待ち合わせていた。
 目の前で、シェフ姿の男性がビラを配っている。貰うとステーキ屋のサービス券だった。「さっぱり客が来ない上に、またですよ。早く年が明けてくれないかね。」
 シェフが嘆くとおり、他の店は混んでいるのにステーキ屋はガラガラだ。値段を下げても客が戻らないという。
 「厚生労働大臣が胸をはって『安全宣言』をしたでしょ。あれ何だったんですか。政府は信用できないよ。」
 確かにシェフの言うとおりだ。狂牛病問題は、日本政府に重大な責任がある。まさに行政の不作為が被害を拡大しているのだ。
 世界のメディアも、日本政府を批判している。科学雑誌として世界的に権威のある「ネイチャー」誌でも、「日本のとった呆れ返る狂牛病対策」という手厳しい論説を掲載しているそうだ。
 狂牛病の牛への感染は、母子感染を除けば、肉骨粉しかない。日本政府は九六年から二◯◯◯年までに八万トンもの肉骨粉を狂牛病発生国から輸入しておきながら、一片の通知文書を出しただけですましてきた。そのツケをいま国民が払わされているのだ。
 海外から批判されるとおり、水俣病や薬害エイズを生み出した行政の構造は、今もちっとも変わっていない。どれだけ被害者が出れば、日本の行政は変わるのか。

横井久美子

タイトル一覧へ HOME