横井久美子 東京新聞「本音のコラム」 2002年1月4日 |
W杯とコスタリカ 二◯◯二年は、サッカーのワールドカップの話題で華々しく幕を開けた。 そのW杯に、中米からコスタリカが出場する。北中米カリブ海地区最終予選で、見事アメリカに勝ち抜き、三大会ぶり二度目の出場という。 実は、私は、一九八六年にコスタリカの隣国ニカラグアを訪問し、主都のマナグア病院などで歌ったことがあり、中米諸国には少なからず関心をもってきた。 コスタリカ(富める海岸の意)は、九州と四国を併せた熱帯雨林の広がる国土に、人口三六◯万人が住む小国だ。スピルバーク監督の映画「ジュラシック・パーク」の舞台にもなった。 コスタリカは、軍隊を持たないことでも知られている。一九四九年に制定した憲法で、常備軍の保有を禁止し、平和国家を宣言した。それいらい軍事費は、教育や福祉に回され、所得水準も中米一位になった。国家予算の二五%が教育費にあてられ、学校では一人が一台のパソコンを使っている。 七九年に隣国ニカラグアで革命が起こり、八◯年代、中米は、世界の火薬庫といわれた。しかし、力ずくで介入してきた当時のレーガン大統領が、コスタリカにアメリカ軍基地建設を要求した時も、当時のモンヘ大統領は、「非武装永世中立宣言」を発表し、毅然として平和主義を貫いた。 一九八六年に四二歳の若さで大統領になったアリアス氏は、国連総会で「私は、武器を持たない国からきました。私たちの国の子ども達は、戦車を見たことがありません。武装したヘリコプターや軍艦どころか、銃でさえ見たことがありません」と演説した。アリアス大統領は、徹底した話し合いによる中米紛争解決に貢献したことによって、八七年、ノーベル平和賞を受賞した。 コスタリカは、また、自然保護と環境産業を両立させている環境立国でもある。国土の三分一が国立公園と自然保護地区になっており、エコツーリズム(ジャングルで大自然を体感する旅)を楽しもうと、世界各地から年間百万人もの観光客が訪れる。 アリアス氏は「地球の環境を破壊しているのは、我々のような貧しい国の人々ではない。アメリカなど電力や石油を消費している豊かな国の無責任な環境破壊には憤りすら感じる」と、穏やかななかにも手厳しく先進国を批判する。 「多くの人は何を優先すべきかについて間違った判断をしてきた。二一世紀に入った今、従来とは違った価値観が求められている」。アリアス氏の言葉に、私は二一世紀への希望を感じる。 世界中で軍隊を持たない憲法をもっている国は、日本とコスタリカだけ。制定されてからの長さもほとんど同じなのに、今や日本は、軍事費では世界第三位の軍事大国になっている。「進んだコスタリカ、遅れた日本」。平和憲法を守るという点では、コスタリカに学ぶことが多い。 新しい年があけ、いよいよ日韓共催のW杯が「スポーツ文化」の一大フェスティバルとして開催される。サッカーは、民族や国家間のみにくい争いを超え、相互理解と友好のもとで交流しようと創出されたスポーツだといわれる。二一世紀最初のW杯が、私たちの世界からテロや戦争をなくす大きな力になることを願っている。 日本と韓国が一次リーグを勝ち抜くことを願うのはもちろんだが、同時に、私は、日本と同じ平和憲法を持つ国、コスタリカの選手が、W杯でどのようなプレーをするのか楽しみにしている。 横井久美子 |
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