横井久美子 東京新聞「本音のコラム」 2002年3月5日
二一世紀のネットロア

 先日、三重県の小学校と高校で全校の生徒を前に歌う機会があった。このとき、今ベストセラーになっている『世界がもし一◯◯人の村だったら』という本を朗読した。
 Eメールを通じて世界中を駆け巡っているインターネット・フォークロア(民話)、「ネットロア」を本にしたものだ。 
 小学校では、「世界がもし一◯◯人の村だったら、二◯人は栄養が十分ではなく一人は死にそうなほどです。でも一五人は太り過ぎです」というと、「へーっ」とあちこちで声があがった。高校生からも「自分の生活がどれだけ恵まれているかショックでした」と手紙を貰った。
 この「ネットロア」の原作者は、昨年二月に亡くなった世界的環境学者ドネラ・メドウズさんだといわれる。
 しかし、彼女の原作では、軍事費より教育と医療を、とあったのに、ネットロアにはない。なによりも残念なのは、原作は核兵器廃絶についての文章で終わっているのに、ネットロアではそれがカットされていることだ。
 先ほど発表された米科学雑誌の「終末時計」では、四年ぶりに核戦争の危機を警告する針が二分進められた。ブッシュ政権の核兵器体制などによって、地球は滅亡七分前になった。
 私たちは今、メドウズさんの本来の願いを復活させて、二一世紀のネットロアを語り継いでいきたい。

横井久美子

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