Kumiko Report 01/27/2007
No9太鼓歌に耳をかせ

ここに一冊の本がある。この一冊の本が私たちをベネズエラ第一の港湾都市、プエルト・カベージョにあるサンミジャンに連れて行ってくれた。そして、私たちとサンミジャンをつないでくれた。これほど「本」というものが偉大な力をもっていることを私は初めて知ったような気がする。

その本は「太鼓歌に耳をかせ」ーカリブの港町の「黒人」文化運動とベネズエラ民主政治ー(石橋純著/松籟社2800円)。「南米の国ベネズエラの『川向こう』と呼ばれた街の青年たちのことをお話します」と始められる500ページ余りもの膨大な著作。2006年1月に出版され、各誌で書評を見ていて、ベネズエラに行きたいと思っていたので手に入れた。ともかくかってないスタイルの本で、歴史、政治、社会、文化、民族、民俗、個人史、人種、宗教、差別、革命などが多角的に詰った本。著者が現地に8年間滞在し、そのフィールドワークの中から生まれた稀有の本なので「スゴイ本!」としか私は言い様がない。そして、是非、ここを訪ねてみたい!と思った。私以上に今回の添乗員でもある富士国際旅行社の原沢さんの熱意が実ってサンミジャン行きが可能になったのです。

著者の石橋純さんは、現在、東京大学大学院総合文化研究所科教授で、このツアーの旅行説明会でお話を伺いたいと思ったのですが、ちょうど、ベネズエラに行かれていてお会いできず残念でした。しかし、直接現地へ電話していただいたり、今回のサンミジャンへの訪問の労をとっていただきました。さて、サンミジャンの「民俗文化救済会」や「太鼓会館」やリーダーである「ヘルマン・ビジャヌエバ」さんのことなど諸々は、本を読んでいただくことにして、私は、写真でレポートします。

1月10日大統領就任式の日、6時に起きた私たちは、首都カラカスからバスで3時間あまりのプエルト・カベージョへ。近くになったら現地までの先導のため迎えにきてくれるというその地点で一人の男性が現われた。「民俗文化救済会」のカリスマ的リーダー、ヘルマン・ビジャヌエバその人だった。私はそれだけで感動した。その後、車で先導してもらってバスが止まり、バスを降りると歓迎の看板が。そこから突如、タンボール(太鼓)や舞踊のお祭りの儀式や「ハンモックの埋葬」が繰り広げられ、私たちは押し寄せるような感動の渦に包まれたのです。この「民俗文化救済会」のメンバーによる熱い歓迎振りに、突然みんな一瞬にして涙、涙。




そして、感動と興奮の中、私たちは「民俗文化救済会」が運動の中から自ら創った「太鼓会館」へ案内され、そこでもしばらく子どもから大人まで一同が演じる太鼓、舞踊、歌を披露してもらったのです。私たちもお礼に、「おいで一緒に」「ふるさと」を歌い、私は太鼓を借りて「げんげんばらばら」を演奏しました。





その後がまたまた凄かった!最初からの予定なのか、私たちの演奏のお返しなのか、「民俗文化救済会」は更に「宗教儀式?」の歌などいろんな踊りや音楽を披露してくれました。そして、その後は、私たちも呼び込まれて踊ってしまうというスゴーイ盛り上がりになったのでした。


以下、ツアーのメンバーです。延々と続きました。私も含めほとんどの人が踊ったように思います。


踊り狂った私たちは汗だくになりながら、大きなお鍋で長時間煮込んでくれた祭りの炊き出し料理「サン・コーチョ・クローサ」を頂きました。その美味しいこと、誰か曰く「ヒルトンホテルの料理より美味しかった!」お代わりした人も何人もいました。


日本からのお土産は代表してヘルマンさんに受け取ってもらいました。私が50個持参した「久美子ピースバッチ」はへルマンさんが一人一人名前を呼んで渡してくれました。嬉しかった!そしていよいよお別れ。私たちは、また、皆さんの演奏つきでバスまで送って頂いたのです。一緒に踊った子ども達もバスと一緒に走って、手を振ってくれました。


私たちは深い感動と幸福感でいっぱいになって帰途に着きました。1970年代からのサンミジャンのバリオ(貧民街)でのヘルマンさんを中心とする伝統文化復興運動。バリオの伝統的な祭りの踊りと太鼓歌(タンボール)を再評価し、その運動が地域社会を再生、代表していった過程を「太鼓歌に耳をかせ」では、緻密な調査をもとに書かれています。私たちは、その本を読み、その現場に来ることが出来たのです。それも、石橋さんのご紹介ということで、このベネズエラで私たちは観光客ではなく、日本からの友人として歓迎され、わざわざ「お祭り」を再現してくれたのです。全く見も知らぬ、地球の裏側の私たちを、一冊の本がサンミジャンに結びつけてくれました。「本」にはスゴイ力があり、「本」は、偉大です。私が帰国して一番最初に手にした本も「太鼓歌に耳をかせ」でした。

横井久美子
2007年1月27日     

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