横井久美子 ハノイにうたう

1973
クワンビン省の旧ドン・ホインという十七度線近くに飛行機に行ったのですが、一九六四年以来、女性としては、わたしたちがはじめて入ったそうです。ジャーナリストも危なくて近づけないというところだったそうです。街全体がそっくりなくなっていました。草も木もありませんでした。
クワンビン省新ドン・ホインでも公演しましたが、七百人定席の会場に、二千人もの人が集まってくれました。あかり一つない道を、トコトコと四キロも歩いてきた人も大勢いたということです。

 


横井久美子 ホーチミン'94

1994
1973年、戦争中のハノイで歌ってから21年、統一後のベトナムで歌ってみたいとずっと思っていました。私の呼びかけに全国から集まった2才から75歳までの40人と一緒に私は、8月19日に成田を発ちました。豊かなメコンデルタに囲まれた500万都市、ホーチミン市は、シクロ(人力車)とバイクと自転車に溢れる活気のある街でした。
8月22日、ホーチミン公演。レックスホールには開場と同時にぞくぞくと人々が入場してきます。ステージから声をかけると、私の歌をラジオやハノイで聞いた人が幾人もいました。
古い大きなクーラーが物凄い音を立てる中、千名余の人が聞き慣れない日本語の歌を熱心に聞いてくれ、ベトナム語の歌ではひときわ大きな拍手が起きました。最後の歌が終わると詩を献呈したいと飛び入りがあり、また、ベトナムの国民的女優チャ・ジャンさん(「愛は17度線を越えて」主演女優)も花束を持ってステージに来てくれました。

帰国直前、21年前に松本清張氏と共に会った、ファン・バン・ドン前首相との単独会見が実現しました。90才、目が見えないということですが、「21年前あなたが来たことを覚えています」といわれ、平和になったベトナムで再会見できた喜びと、その変わらない率直さ鋭さに、涙と震えが会見場を出るまで止まりませんでした。


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